「私」がわからない①~幼児期の自己形成不全~
最近では、『愛着障害』という言葉が知られてきて、愛着障害=愛情を得られなかった障害みたいなイメージがありますが、「愛着」とは、愛情でも執着のことでもありません。
「愛着」とは、①何らかの危機にさらされ、不安などの否定的な情動を抱えたときに子どもが母親の保護を求めて接近する「愛着行動」と、②それに対して母親(特定の養育者)が保護を与えることで子どもが安心するという「愛着システム」の相互作用のシステムのことで、生物学的にプログラムされたもの。のこと。
本来の意味での「愛着」には、感情や意志は含まれません。
つまり、何が言いたいかというと、「愛着障害」は、親から愛されなかったという障害ではなく、「愛着の発達がまだ未発達ですよ~」ということです。
母親からの一方的な愛情のことではなく、子どもの側からは、泣いたり、微笑んだり、目を合わせたりして、母親に働きかけ、母親の側からは、タッチや、高い声や、見つめたり、やわらかく包んだりすることで子どもに働きかけ、そうやって、赤ちゃんと母親は、五感のあらゆる能力を活用して、相互作用を展開するのが愛着です。そして人は、それぞれの愛着スタイルを形成していく。自分と他者との結びつきのパターンをつくります。
安定した愛着が形成されるには、母子がともに温かく包まれ、安心して過ごせる環境が必要です。
母親が自分らしくいられる時、赤ちゃんはホッとできるものね。
さて、今日のテーマ、「私」がわからない。
感情解放型の心理セラピーでは、感情や感覚を使って無意識にアクセスし、幼少期に抑圧した未完了の感情を解放していくのですが、「そもそも、自分の感情がよくわからない」という人がいます。
「今どんな感覚や気持ちがしていますか?」という問いかけに、「え、感覚?感情?んー、よくわからない・・・」と、頭に???が並んでしまう。
何が起きているのでしょうか。
私がセッションしてきた中では、次の3つのパターンがよく見られます。
1つ目は、「乳児期の自己形成の未発達」
2つ目は、「過保護・過干渉、もしくは強い支配」の状態。
3つ目は、「自分ではなく、誰かの人生を生きている」場合です。
今日はまず、乳児期の自己形成の未発達があることで、なぜ自分の感覚や感情がわかりずらくなるのか、そんなお話をしてみます。
赤ちゃんは、胎内にいる時には、お母さんとへその緒でつながっています。こころもからだもひとつ、一心同体の状態です。それが、出産を経て、へその緒が切れ、体が分離します。しかし、まだこの段階では、体は分離しても、感覚はお母さんと一緒です。まだ自分というものがわからない「融合状態」。
ではその後、赤ちゃんはどうやって自分を形作っていくかというと、目の前にいる養育者(多くはお母さん)を鏡として、その目にうつる自分を見たり、アーアーと声を発すると反応を返してくれたり、体をさすってくれたり、トントンしてくれたり、そんなやり取りを通して、自分という存在があることを確認していきます。
この時期の身体的接触や応答的な関わりが少ないと、自分の輪郭がはっきりせず、自分自身の感覚もよくわからないままになってしまいます。他者との境界線がよくわからずに、他人の侵入を許してしまったり、人の痛みを自分のものとして感じてしまって、とても生きづらくなったり。。。
何が自分なのか、自分は本当にここに存在しているのか、自分は何を感じているのか?
「もそも感じるって何?」
これが、乳児期の自己形成の未完了による、「自分がよくわからない」です。
クライアントさんの特徴としては、感情の動きの幅がないこと。ツーっと一定な感じで、表情も乏しく、喜怒哀楽がわかりにくい。
これは、9ヶ月くらいまでの「早期愛着」とも密接に関係しています。この乳児期の欲求が満たされないと、心の深いところで「自分には何か変なところがある」と感じてしまい、自分自身を恥ずかしく感じてしまいます。
乳児期の自己形成部分の未発達が残る場合には、心理的なセラピーとともに、身体にアプローチするセラピーもおすすめです。
もし自分自身でできることとしたら、定期的にマッサージを受けたり、ハンモックに揺られたり、毛布にくるまって何もしない時間を静かに過ごしたり、誰かにご飯を作ってもらったり。。。
自分のからだをじっくり感じてあげる時間をぜひ作ってみてください。まだ言葉で会話する以前の、体での対話を行うことで、自分自身の感覚を発見し、取り戻すことができます。そうすることで安心感が得やすくなります。
感覚がないところに感情はありません。感覚や感情がわからなければ、自分を信じることもできず、安心感がわからなければ、人を信用することもできません。
「乳児期の自己形成の未完了」による「私がわからない」な人は、
まずは、自分の感覚を取り戻し、育てていくところからのスタートです!
愛着の悩みは、大人になってからでも改善していくことができます。
次回は、過保護・過干渉や強い支配による「自分がわからない」についてお話します。