はじめに:「愛着障害」という言葉についての注意点
「愛着障害」という言葉は、現在、2つの状況において使われています。ひとつは、心理学研究や乳幼児臨床における「アタッチメント障害」としての狭義の意味。もうひとつは、「幼少期の親子関係により、成人してからの人間関係の中で生きづらさを抱えている」という一般的なイメージとしての「愛着トラウマ」としての意味。
当相談室は、「私ってもしかして愛着障害?」という成人の方々のためのセラピーを提供している都合上、そのような不安を抱えている多くの方に届くように後者ような広い意味での「愛着トラウマ」という言葉を使っております。
本来、「愛着」とは「人との関わりのスタイル」を意味する言葉であり、不安や恐怖を感じる場面での子ども側からの愛着行動(くっつく行動)と特定の対象からの養育行動による相互関係で形成されます。「愛着がある」とか「愛着がない」と捉えるものではなく、「親からの愛情がなかった」とか「スキンシップが重要」と同義ではありません。
※「愛着障害という言葉の取り扱い」については、こちらのページでさらに詳しく解説しております。
大人の愛着トラウマにみられる特徴・症状
愛着に傷つきを抱えていると、必要に応じて心の扉を開閉できる状態ではありません。もうこれ以上傷つかないように、心の扉をガッチリと閉ざしているか、もしくは、カギが壊れ、開いたままになっています。極端な自立か、極端な依存状態です。これにより、人間関係での距離感がわからず、孤独感や無価値感を抱えやすくなります。
★大人の愛着トラウマの特性(参照:「愛着障害」岡田尊司 )
自己否定/信頼や愛情が維持されにくい/人との距離感がわからない/傷つきやすくネガティブに反応/ストレスに弱くうつや心身症になりやすい/非機能的怒りにとらわれる/過去にとらわれやすい/過剰反応/「1か0か、全か無かの二極思考/全体より部分にとらわれやすい/意地っ張りでこだわりやすい/発達の問題を抱えやすい/自分を活かすのが下手/人や物に依存しやすい/アイデンティティが確立する青年期につまずきやすい/子育てに困難を抱えやすい/道化という関わり方をする(自己卑下)/安住の地を求めてさまよう/性的な問題を抱えやすい
大人の愛着トラウマの原因は?
大人の愛着トラウマの原因には、幼少期の親子関係における「虐待体験」や「ネグレクト体験」だけでなく、「出生時におけるトラウマ(バーストラウマ)」や、集合無意識下でおきる「世代間連鎖」も関係してきます。また「発達障害」の二次的な障害として愛着の傷つきがみられる場合もあります。
つまり、「親の愛情がなかった」とイコールではありません。
「愛着障害」というと、「ダメ親」とか「毒親」などと、養育者を悪者とみなし、「親をあきらめる」もしくは「親をゆるす」といったセラピーもありますが、この方法では、愛着の傷を一層深めてしまうこともあります。実は、許しのプロセスは、人生をかけて行うほど大変なものなので、簡単ではないのです。「こんな親からはもう(心理的に)離れる」と宣言して自立することは、一見楽になったように感じますが、根本的な解決には至りません。
生きづらさや人間関係の困難さの原因を、様々な角度からアプローチする中で、今見えている視点とは別の、もっとおおきな流れの中での視点をもてるようになると、無理に「許そう」としなくても、個別の怒りは和らぎ、感情の波にのまれることから距離をとれるようになります。そうして他者とのつながりを取り戻し、ゆっくりと回復していきます。
大人の愛着トラウマからの回復のために
愛着の回復には、いくつかのステップがあります。
1.「安全基地」をもつ
2.認知のゆがみに気づく
3.傷ついた体験を語りつくす
4.未完了の感情を解放させる
5.身体感覚レベルで、つながりの感覚を取り戻す
6.日常のなかで、他者との安心と信頼によるつながり体験を積み上げる
また、周産期におけるトラウマがある場合には、自他の境界が非常にあいまいであったり、生きている感覚がつかめなかったり、無意識の死への近づきがあったり、「宇宙に帰りたい」というような時間や空間のゆがみを生じてしまうこともあります。そのような場合には、心理療法と並行して、マインドフルネスやボディケアといったアプローチも必要になることがあります。