toggle
見捨てられ不安・大人の愛着・家族関係の悩みをサポ―トする民間の女性専門カウンセリングルームです。心理セラピー/ファミリー・コンステレーション/原始反射統合/催眠療法

トラウマと解離

トラウマとPTSD ~こころの傷を癒す旅へ~

トラウマとは

日常生活の中で、私たちは「トラウマ」という言葉を使うようになりました。

トラウマとは「心の傷」のことです。

衝撃的で、通常の行動では対処できず、心が耐えられないほどの出来事「トラウマ体験」といいます。また、トラウマ体験により、長期にわたっておきる心身の不調を「トラウマ症状」といいます。
日常の不安や恐怖と、トラウマとの間には大きな違いがあります。

それは、前者が一時的にはストレスであっても、時間がたてば薄れたり、自分でも対処できるものであるのに対し、後者は、何ヶ月たってもその出来事の記憶が消えず、社会生活に困難をもたらす、ということです。

つまり、トラウマは時間が解決してくれるものではない、ということです。
時間の経過とともに薄らぐことはあるでしょうが、ストレスがかかった時などにまた噴出してしまうことが多いのです。

トラウマを引き起こす要因

トラウマを引き起こす体験には、
自然災害、戦争、事故、レイプ、子ども時代の虐待
などがあります。
また、次のようなものもトラウマの原因になります。
・犯罪被害
・重い病気や怪我
・手術での処置や歯科での処置
・いじめ
・仕事や学業での失敗やストレス
・困難な出産
これらが原因となり、トラウマ場面の再体験(フラッシュバック)や、過緊張、病的な不安、抑うつ、睡眠障害、否定的思考などがおこります。これらがトラウマ症状です。
また、あまりにも心の状態がつらい時には「解離」という状態を起こします。現実感がなくなり、感情も感じられなくなる状態です。これは、気持ちを麻痺させることで、自分を守るこころの働きです。
(※同じような状況を体験しても、受け止め方には個人差があるため、トラウマ症状が出る人と出ない人がいます)

トラウマは人生にどんな影響を与えるのか

トラウマ体験をすることで、世の中が安全なものだとは思えなくなってしまったり、人を信頼することができなくなってしまいます。それまでの世界観や人生観ががらっと変わってしまうのです。
トラウマ体験によって引き起こされる変化を「トラウマ反応」といいます。
生活面では、人付き合いを避けるようになったり、
心理面では、無力感や罪悪感、否定的な感情をもちやすくなったり、
身体面では、食欲不振や体の痛み、動悸や不眠
などが起こったりします。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは

上記のようなトラウマ反応は、うつ病や不安障害、アルコール依存など心の病気を引き起こす原因となります。
また、時間がたってからもトラウマ体験に対して強い恐怖を感じ、トラウマ反応が継続すると「PTSD」と診断されます。
PTSDは、命の安全が脅かされるような出来事(危うく死ぬ、または重症を負う、あるいは他者がそのような目に遭ったり、実際に死んだりするのを目撃するといった強い恐怖体験)により、それが心の傷となって発症、体と心にさまざまな深刻な変調をきたします。
衝撃的な記憶が身体に刻みこまれ、日々の生活を振り回します。
痛み、音、匂い、光景などの感覚が意識下にバラバラに記憶されるので、ひとつのまとまりのある出来事として言語化することも難しく、トリガー(引き金となる刺激)に触れた瞬間に、脳の中で記憶が再体験され、突然パニックがおきたりするのです。

PTSDという言葉は、第一次世界大戦からトラウマ研究が進み、さらにベトナム戦争帰還兵の研究を通して、1980年の米国精神医学会の診断マニュアルで初めて用いられたものです。日本では、1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件がきっかけとなり、注目されるようになりました。

※症状が1ヶ月未満で消失する場合は、急性ストレス障害(ASD)といい区別されます。

PTSDの症状

PTSDと診断するための基本的な症状は、
「再体験(フラッシュバック)」
「回避」
「過覚醒」
「否定的認知・否定的気分」
です。

再体験

「再体験」とは、トラウマを受けた当時の瞬間が、頭の中に勝手に侵入してくるような現象です。嫌な記憶が急によみがえったり、当時の状況を夢に見るなど、痛み、におい、音、光景が、まさに今起こっているかのように生々しく思い出されます。

再体験の最もはげしい症状が「フラッシュバック」です。
フラッシュバック現象が起きると、記憶が飛んだような状態となり、今まさに事件や事故がその場で起きている心理状態に陥ります。そのため、急に部屋を飛び出したり、つらさのあまりに自傷行為をすることもあります。カウンセリングやセラピーの中で眼球の動きが止まっていたら、フラッシュバックが起きている可能性があります。

回避

「回避」とは、トラウマ体験と関連するものや状況持続的に避ける行為です。
トラウマをできるだけ思い出さないように、刺激の侵入をブロックして回避します。
例えば、
・テレビやネット見続けるとか、ゲームをやり続けたりして気を紛らわせる
・大勢いる場所をさけたり、ひきこもったりする
・人と会わない、恋愛しないなど、感情体験を避ける
などがあります。

感情自体を抑え込むと「麻痺」がおき、自分の感情や欲求がわからなくなってしまいます。

さらに進むと「解離」がおきます。解離とは、自分が自分でない感覚や、自分と他人が見えないベールで仕切られているような感覚となり、感情が平板化する症状です。
(解離の詳細については、後半の「解離」の項目をご覧ください)

過覚醒

「過覚醒」は、神経が過敏になっていて、ちょっとしたことにも過剰に反応してしまう状態です。
過度の緊張や警戒が続き、こころもからだもまだ危険な状況に置かれているかのように反応します。
小さな物音でも飛び上がるように驚いたり、過剰な警戒心があったり、イライラしたり、集中が困難になったりします。睡眠障害が起きることもあります。
脳や神経が恐怖を感じて、つねにアラームを発している状態なので、エネルギーを消耗し、心身ともに疲れ切ってしまいます。(1日を過ごす中で、夕方頃にはもうグッタリとして動けなくなってしまう人もいます)
より強い刺激ですり替え(ギャンブルや過食、激しい恋愛、仕事中毒、自傷行為など)たり、逆に、アルコールや薬物、過眠などで覚醒を下げることもあります。それらは依存症につながりやすくもなります。

否定的認知・否定的気分

「否定的認知」は、「自分はダメな存在だ」とか、「誰も信用できない」とか、「世界は危険だ」など、自己や他者、社会へのネガティブな思い込みに支配されることをいいます。

「否定的気分」は、他者を恨み続けたり、過剰に自分を責めたりするマイナスの感情を持ち続けてしまうことをいいます。

これらの背景には、「自分には力がない」という無力感や罪悪感、恥の感覚がひそんでいます。

トラウマからの回復はゆっくりと

トラウマの体験は、さまざまな症状を引き起こすだけでなく、自信を失ってしまったり、生きていることを喜べなくなってしまいます。投げやりな生き方をはじめてしまうこともあるでしょう。

トラウマは、自分の人生の主導権をにぎる感覚を人から奪います。

なので、回復のための課題は、自分の体と心を取り戻すことです。

トラウマの症状が強ければ強い人ほど、回復への行程はゆっくりがおすすめです。一気に解消しようとすると、引き戻す力が働いたり、痛みに触れないように無意識にガードを強化してしまったりするからです。

トラウマからの回復のステップとして、心理学者メアリー・ハーベイさんによる7段階モデルをご紹介します。

ステップ①  記憶想起の過程の主体者になる
(思い出すかどうかは自分)
ステップ②  記憶と感情の統合(あのときの痛みを語る)
ステップ③  感情耐性(自分の気持ちが受けとめられる)
ステップ④  症状統御(「引き金」に気づく)
ステップ⑤  自己尊重感とまとまりのある自己感(大切な自分の価値を認める)
ステップ⑥  安全な愛着(関係を育てる)
ステップ⑦  意味を見出す(人生という物語) 
『Be!111号 特集トラウマからの回復7つのステップ』(2013)より

トラウマのケアは、専門的な支援を必要とします。認知行動療法やEMDR、エクスポージャーなどの心理療法がありあす。いずれも安全な環境のなかで、人との信頼関係を回復させていくことが重要です。

自分でこころを癒していくための本も出ているので、いくつかご紹介します。

『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』
白川美也子(アスク・ヒューマン・ケア)


(画像をクリックするとAmazonに飛びます)

『こころを癒すノート トラウマの認知処理療法自習帳』
伊藤正哉・樫村正美・堀越勝(創元社)


(画像をクリックするとAmazonに飛びます)

『トラウマを乗り越えるためのガイド マインドフルネスとメンタライゼーションの実践』
リサ・ルイス他  神谷栄治訳(創元社)

(画像をクリックするとAmazonに飛びます)

■参考文献

『トラウマ』(2013)宮地尚子  岩波書店
『身体はトラウマを記録する』(2016)ベッセル・ヴァン・デア・コーク著  柴田裕之(訳)  杉山登志郎(解説)  紀伊國屋書店
『トラウマへのセルフ・コンパッション』(2018)デボラ・リー、ソフィ・ジェームス 著  石村郁夫、野村俊明 (訳)  金剛出版
『心理学辞典』(1999)中島義明 他 有斐閣
『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』(2016)白川美也子(アスク・ヒューマン・ケア)
『こころを癒すノート トラウマの認知処理療法自習帳』(2012)伊藤正哉・樫村正美・堀越勝(創元社)
『Be!107号  特集 トラウマを受けた人に伝えたい7つのこと』(2012)アスク・ヒューマン・ケア
『Be!111号  特集  トラウマからの回復7つのステップ』(2013)アスク・ヒューマン・ケア
『Be!114号  特集 災害トラウマの特徴と身体からのアプローチ』(2014)アスク・ヒューマン・ケア

解離について

「自分と世界の間に、半透明の膜があるように感じる」とか、
「いつも頭の中がうるさい」、
「体から魂が抜け出して自分を見下ろす」、

なんてことはありませんか?

他にも、自分自身を外から眺めているような感覚に襲われたり、楽しいことをしているはずなのに楽しくなかったり、記憶があいまいだったり思い出せなかったり。

このような状態を「解離(かいり)」といいます。

トラウマ体験や、愛着障害、その他、安心できる居場所がないといった環境要因(安心できる居場所がない)を背景としておきます。耐えがたい苦痛や葛藤から自己を守るために、無意識にこころを切り離す、という防衛機制のひとつです。

過剰に空気を読み、周囲に合わせようとして、夕方頃にはぐったりとしてしまうこともあります。

私たちの思考や記憶、感情、行動は、本来ひとつにまとまって「自分自身」であるという感覚を作っていますが、「解離」とは、これらの感覚をまとめる能力が一時的に失われ、バラバラになってしまっている状態なのです。

「時間的分離」と「空間的分離」

「解離」には、大きく2つの現れ方があります。それは、

時間的に分離する現象と、
空間的に分離する現象です。

どういくことでしょうか?

よくテレビなどで見かける記憶喪失や人格交代(多重人格)は、「時間的な分離」です。
メールに知らない送信履歴があるというのもこれです。

時間的な分離は、まわりの人も、日常の中での食い違いが生じてくるので「変だな」と気づきます。

人格交代(解離性同一性障害)は、幼少期の性虐待のサバイバーさんに多く見られる症状です。

また「退行」といって、急に子どものようなしゃべり方になったり、行動をとったりすることもあります。子どもの人格が現れるのです。

そして、ぜひお伝えしたいのが、
もうひとつの、「空間的に分離」する解離についてです。

生きづらさを抱えセラピーに来る方に、この「空間的な解離症状」をもっている方が実はとても多いです。

では、「空間的に分離」するというのは、どういうことでしょうか?

それは、本来はひとつの「私」がふたつになってしまうことです。

自分の意識が「存在している私」と「それを見ている私」に分離してしまう。
現実感がなかったり、身体感覚が薄れたり、何かの気配におびえてしまう状態。

それが強く出ると、離人症状体外離脱体験となります。

「寝る直前に大きな黒い闇が現れて飲み込まれそうになる」とか、「頭の中でふたりの自分が言い合いをしていて、自分はそれを離れたところから眺めている」というような症状があります。

「頭の中に5人の自分がいて、みんながそれぞれに主張しあっているので、いつも頭の中がワーワーうるさい」という方もいらっしゃいました。

 

「見ている自分」と「見られている自分」

この空間的な分離には、

「うしろに誰かいる!」などと人の気配を感じたりする「過敏」と、もうひとりの自分が見えたり、頭の中にいくつかの自分がいたり、現実感がなくなったりする「離隔」の2パターンあります。

「お風呂に入って髪を洗っているとき、いつも後ろに誰かいる感じがする」という方がいます。
他にも、トイレや台所、部屋の隅に気配を感じ怖いとか、眠りにつく直前に幻覚を見るとか。
そう聞くと、「あ、私もある!」と思われる方もいるかもしれませんね。

これが「過敏」の状態です。

一方、

先ほどのように、頭の中で数人の自分自身が議論しあったり、スーパーで買い物をしている時に、自分がそこから抜け出し上の方から見ているとかの離人症状があったり。

これらが「離隔」の状態です。

どちらも、「見ている自分」と「見られている自分」の分離をベースに現れててきます。

これら「解離」症状を発する人のほとんどに、幼少期からの強い精神的なストレスを受けています。
「解離」の状態は、自分自身を守るために身につけた自己防衛反応でもあります。

だた、その状態が大人になっても続いてしまうと、

やりたいと思うことがあっても体が動かなかったり、
楽しい場面でも楽しいと感じられなかったり、
人が怖くて、孤立を選んでしまったりします。

豊かな人生を送ることにブレーキがかかってしまうのです。

 

解離性障害の分類

診断の場面で使われる解離性障害の分類です。
(※数時間~数日感の離人感や現実感消失は健常人でもみられます)

解離性障害では、多くの場合、以下の症状が重複してみられ、また幻聴などの症状を抱えていることもあります。

1)解離性同一性障害(多重人格障害)
(2)解離性健忘
(3)解離性遁走(※DSM−5では解離性遁走は解離性健忘に含まれる)
(4)離人感・現実感消失障害

ひとつづつ、観ていきましょう。

(1)解離性同一性障害(多重人格障害)

自分の中に複数の人格(パーソナリティ)が入れかわり立ちかわり現れる状態。それらの人格間で記憶が共有されないため、社会生活に大きな支障をきたす。慢性的な発達上の外傷体験(身体的虐待・性的虐待)と関連していると考えられている。

(2)解離性健忘

心的外傷的な出来事やストレス性の強い場面についての記憶を想起できない。部分的な健忘と、全生活史の記憶が抜け落ちた全生活史健忘があり、「健忘のみが生じている」場合に診断される。

※頭部外傷やてんかんなどの身体疾患による記憶喪失とは区別される。(脳の外傷による健忘では、外傷が起きた時点とその前のことを思い出せなくなる解離性健忘では、解離のきっかけになった出来事以降のことを思い出せないタイプの健忘がほとんど)

(3)解離性遁走

突然それまでの生活場面(家庭・職場・学校)から姿を消し、まったくゆかりのない別の場所で発見され、別の人物として新たな生活を始めていたりする。その最中は、自分が誰かという感覚(アイデンティティ)が失われ、自分の行動や以前の生活についての記憶を失っている。
※頭部外傷やてんかんなどの身体疾患による記憶喪失とは区別される。

(4)離人感・現実感消失障害

自分という感覚や、自分の意思で何かを行なっているという実感が薄れている症状。自分を外から眺めているという幽体離脱体験として語られることもある。離人症状は、以下の3つに整理される。

①「自分が存在しない」「生きている感じがしない」といった自己の感覚の離人症状
②「自分の体がじぶんでないように感じる」といった自己の身体の離人症状
③「周囲の人や物がなんとなく疎遠に感じられる」といった外界についての離人症状

 

回復の過程

解離の人は、現実と夢、現在と過去などの区切りがあいまいな世界にいます。
生と死のはざまでひとり立ちすくんでいる状態です。

心理セラピーでは、それらの心の傷を癒していくとともに、分離してしまっている自分自身を統合していきます。

回復への道のりは時間がかかります。
強烈な恐怖から分離してしまった心と体が、再び統合されていくには、無意識に死の恐怖を感じるからです。

無理に回復を急ぐと、逆に抵抗を強めてしまいます。
だから、時間をかけるのです。

本人の話を否定せずに聞き、まずは共感した上で、現実との相違点、思い込みの可能性などを一緒に考えていくことが大切です。

少しずつ「安全」を感じられるようになることで、自然と心(上部意識と下部意識)が近づきます。
ぴったり一致させるのではなく、そこに橋をかけて、どちらにも行けるようになることを目指します。

そしてバラバラな自分がひとつに統合されてくると、からだの真ん中に、自分自身を生きる力のような芯が生まれてきます。何より表情が変わります。

カッチリと能面のようだった表情が、生き生きと動き出すのです。

 

■参考文献

『わかりやすい「解離性障害」入門』(2010)岡野憲一郎 星和書店
『解離性障害のことがよくわかる本』(2012)柴山雅俊 講談社
『解離の舞台 症状構造と治療』(2017)柴山雅俊 金剛出版

PAGE TOP