こころの仕組みについて
自信を取り戻し、楽に生きるために
あの出来事さえなければ・・・
もしあの人さえいなければ・・・
容姿やスタイルがよかったなら・・・
どうせ私なんて・・・
こんな風に、いつも誰かをうらんだり、孤独感や劣等感にさいなまれているならば、それは人生の主導権を何かに明け渡してしまっている状態です。それは重くて、苦しくて、つまらない毎日。
本当は、もっと生き生きと暮らしたい。自信をもちたい。自分が好きになりたい。
・・・ですよね。
でも、どうしたらいいかわからない。
そんな時には、まず「こころの仕組み」を知ることからスタートです。
「こころの仕組み」を知ることで、人生が変化します。
そして、未完了の感情に気づくことは、人生の主導権を取り戻すことにつながります
すると不思議なことに、人間関係が変化したり、仕事がうまくいったり、何より楽に生きられるようになります。
世の中の見え方が変わってくるのです。
まずは、こころの仕組みから見ていきましょう。
こころの仕組みの3つの側面
人のこころの仕組みは、次の3つの側面から捉えると理解しやすくなります。
「認知」「感情」「行動」です。
それぞれが密接につながり、互いに影響を与えあっています。
例えば、山道でクマに遭遇するという<出来事>に対して、
①危険だ!という<認知>が、
②不安や恐怖の<感情>を生み、
③逃げるという<行動>につながる
という具合です。
同じ状況でも、これがマタギとして山に入っていたならば、
①獲物がいたぞ!という<認知>から、
②高揚感という<感情>を生み、
③追うという<行動>につながるかもしれません。
このように、ひとの心の仕組みは、
認知・感情・行動 という3つの側面から見ることで理解しやすくなります。
自分の内側をみていくタイプの心理療法では、この「認知」や「感情」にアプローチしていきます。よりコーチング的なものでは、「行動」を変えることでこれまでのパターンを変化させていくというのもあります。
感情のしくみ
3つの中で、特に人の「こころ」をイメージさせるものは「感情」でしょう。
喜び、怒り、悲しみ、恐怖、不安、焦り、嫌悪、などです。
笑ったり、泣いたり、感情があるからこそ人間らしいとも言えます。
感情は、人間という生き物が身を守るために身につけた機能です。
好ましい状況や対象に対しては「快」の感情が発生し、好ましくない状況や対象には「不快」な感情が発生します。
つまり、私たちに注意を促すために生じ、行動を起こさせるのが感情の役割です。
本来感情には「良い」も「悪い」もありません。ですが、人は強い感情が苦手です。
特に「ネガティブ」と呼ばれる感情に対しては抵抗があります。
こころの悩みを抱えて相談に来られる人の多くは、このネガティブ感情を抑圧しています。感じないようにしている場合もあれば、感じることができない場合もあります。傷つくことは、痛いからです。
不快な感情を感じないですむように、人は様々な防衛策を講じて生き延びようとします。
これは「防衛機制」と呼ばれ、「投影」「理想化」「退行」「合理化」「昇華」などがあります。
(詳しくは後半の「防衛機制」の項目をご覧ください)
感情を作り出す「扁桃体」
感情を作り出すのは、脳の「扁桃体」という部分です。
扁桃体は、何かを見たり聞いたりした時に、それが生存に関わる重大なものかどうかを瞬時に評価します。
その扁桃体が下した評価を体に伝えるメッセージが「感情」です。
例えば、突然ヘビがニョロニョロと現れたら、扁桃体が興奮し「ギャッ」と嫌悪の感情が込みあげます。
一方、感情をコントロールする(=扁桃体の興奮を抑える)のは「前頭前野」の働きです。
前頭前野は、霊長類でもっとも発達した、新しく進化した脳で、理性をつかさどり、論理的な思考を行う場所です。集中や計画、意思決定、洞察、判断などができ、精神の制御装置として働きます。
しかし、ストレスがたまったり、お酒を飲んだりすると、この前頭前野のブレーキが弱まり、普段は抑え込んでいる衝動に負けて、感情が暴走しがちになります。
感情をマヒさせてしまうと・・・
感情はエネルギーです。自然と呼吸をするように、感情も自然と生まれるもの。本物の感情をそのまま感じることができると、そのエネルギーは消えていきます。
しかし、「ガマンしなければ!」と抑えたり、「この感情は感じてはいけない」と隠したりしてしまうと、そのエネルギーは消えることなく、胸の奥に蓄積されてていきます。
普段おさえつけている感情は、心配ごとが起きたときやストレスがかかった時、ひとりで静かになった時などに突然あふれ出します。そして、どんどん大きく積み重なり、限界がくると「もう無理!」と、心だけでなく、体にまでダメージを及ぼしてしまうのです。
感情をマヒさせてしまうと、喜びや楽しみも感じにくくなり、虚しくなります。自分は何が好きで、何をしたいのかもわからなくなってしまいます。
無意識のうちに抑圧している未感情の感情に気づき、徐々に解消していくことで、モノクロだった景色が彩りのあるカラーへと変化し、豊かな人生へと変化していくのです。
感情の役割を知る
先に述べた通り、感情は人間が生き延びるために身につけた機能なので、良い悪いではありません。どの感情もそれぞれに意味をもち、自分を守ったり、自分にとって大切なものを教えてくれたりする、とても大事な役割があるのです。
それぞれの感情の役割を知ることで、感情を感じることにOKが出しやすくなります。
心理セラピーでは、不快な感情をなくすことを目的とするのではなく、感情と共にいられる自分になることを目指します。感情を感じることは、傷つくこともありますが、同時に喜びも感じられるようになり、人生を豊かにしてくれるからです。
では、基本的な感情である、不安・怒り・悲しみ・恐怖・喜びには、どんな役割があるのでしょうか?
不安
「不安」は、漠然とした未知のものに対する怖れの感情です。安全が確保されていないということを知らせてくれると同時に、未来に起こるであろうトラブルへの準備をすながす役割があります。
怒り
「怒り」は、自分の境界が侵されたり、自分が困った状況に置かれていることを知らせてくれる感情です。緊張を高め、自分にとって大切なものを守るという役割と、状況を変える役割があります。
⇒「怒りについて」の詳細はこちらのページへ
悲しみ
「悲しみ」は、「自分が何かを失った」ということを知らせてくれる感情で、対象となったものが自分にとってどれだけ大切であったかを教えてくれます。心を内側に閉じて活動レベルを下げることで、喪失体験をした心身をいたわる役割があります。
⇒「グリーフケア」についてはこちらのページへ
恐怖
「恐怖」は、自分の身体が危険な状況であることを知らせてくれる感情です。その危険から逃げるための体の準備と行動を促す役割があります。
喜び
「喜び」は、生存機能を伴う感情というより、生きるためのリソース(資源)を与えてくれる感情です。未来に希望を見出したり、安心感や充足感をもたらします。ポジティブな感情は創造的な思考や学習の機会を増加させる役割があります。
その他の感情として、
「嫌悪」は、自分に害をもたらす存在を知らせてくれる役割があったり、
「恥」は、自己イメージを守るため警告を発してくれる役割があったりします。
このように、
どんな感情にも、人間にとって必要な役割があります。
持っていい感情、持ってはいけない感情、というものはないのです。
大事なのは、その感情を見ないようにしたり、その感情に振り回されて自分を見失わないこと。感情が伝えてくれるメッセージに耳を傾け、人生の主導権をしっかり握っておくことで、人生は心地よいものに変化していきます。
防衛機制について
防衛機制とは
防衛機制(ぼうえいきせい)とは、不安や危険が生じたときに、一時的に安定を保とうとする心のはたらきのことをいいます。
通常は意識して生じるものではなく、苦痛や受け入れがたい感情を受け流すために無意識的に働きます。
例えば、イソップ寓話のひとつ、「すっぱい葡萄」は、いくつかある防衛機制のうちの【合理化】として読むことができます。
お腹を空かせたキツネが、たわわに実った美味しそうなぶどうを見つけ、食べようとして飛び上がったけれど届かなかった。そこで、「あの葡萄はどうせすっぱいから食べなくていい」と理由づけ(負け惜しみ)をしてあきらめるというお話です。
自分の能力の低さを擁護したり正当化するために、相手の価値を貶めるという心の働きを合理化といいます。これによって、自分の怒りや悔しさという感情を感じなくて済むようにもなります。
心を安定させ、不快な欲求・感情から、自我や自尊心を守ろうとするのです。
防衛機制は、誰もが持っている正常な心の作用で、「感情」と同じく、人がいきていくためにとても大切な役割をはたします。一方、過剰に働いてしまうと、脅迫神経症のような病的な症状や不適応となって問題が現れます。
「防衛機制」という用語は、フロイトが1894年に「防衛」という語で初めて記述し研究されました。その後、娘のアンナ・フロイトが発展させ、1936年に『自我と防衛のメカニズム』という本を出版し体系化されます。
それでは、防衛機制について、ひとつひとつ、見てきましょう。
主な防衛機制
※通常は単独ではなく、複数の要因が関連して作用します。
抑圧 | 代表的な防衛機制。受け入れがたい不快・苦痛の感情や観念を、無意識のうちに押し込めてしまう心の働き。他のものとともに作用する。意識に抑え込んだ欲求不満やネガティブな感情などの抑圧内容は、夢や言い間違いなどのなかに現れたりする。 |
否認(否定) | 現実を知覚していながら、認めようとしない心の働き。例えば、大きな病気や苦痛に対して「大したことはない」と思うことなど。目の前で起きている悲惨な状況などに耐え切れず、心を閉ざすことによって現実を認識しないようにする。 |
合理化 | 不都合な現実をゆがめたり、最もらしい理屈や理由をつけて自分の欲求や感情を正当化しようとする心の働き。例えば、仕事で失敗したのは、難しい仕事を押しつけた上司が悪いなど、理由づけをして自分自身を納得させようとする。 |
知性化 | 受け入れるのが難しい状況や感情を理屈や論理的思考により頭で理解しようとする心の働き。理不尽な出来事に対して、どうしてそうなってしまったのか情報収集し、理屈で理解しようとすること。自分の欲求を感じるより、知的に考え説明しようとする。 |
同一化(同一視) | 他人の長所や能力をまねして自分の中に取り入れ、自分自身を重ねて自己評価を高めることで欲求を満たそうとする心の働き。例えば、ブランド物で身を固めたり、有名人の服装や言動を真似したりなど。 |
投影 | 自分の中の受け入れがたい(後ろめたい)感情や衝動を自分から排除し、他人のものとして転嫁し、非難すること。例えば、自分が嫌っているのに、相手が自分のことを嫌っていると思い込むなど。妄想的な人は、自分自身の憎しみを抑圧してそれを相手に投影するため、その相手が自分のことを傷つけるように感じてしまうと考えられている。 |
反動形成 | 抑圧されている衝動や感情、態度が、無意識的なものとなり、意識や行動面で正反対の行動として表れること。例えば、子どもへの拒否感を否定するために過保護になるなど。 |
逃避 | 困難な現実から逃げ出す、または状況から逃避する場を設けることで不安や緊張や恐怖の感情をさけようとする心の働き。現実への逃避、病気への逃避、空想への逃避がある。例えば、試験前に大掃除を始めたり、関係のない本を読んだりするとか、学校に行こうとすると熱を出したりなど。 |
退行 | 子ども返りのように、以前の未熟な発達段階に逆戻りする心の働き。赤ん坊のようにふるまって他人の気を引こうとするなど。 |
代償(補償) | 劣等感を他の方向で補なおうとする心の働き。例えば、勉強ができないからスポーツで活躍するなど、本来の欲求が達成困難になった時に、ほかの欲求に置き換えて満足しようとする。八つ当たりも代償のひとつ。社会的な価値の高い方向に代償が行われる場合は「昇華」と呼ばれる。 |
昇華 | 反社会的な欲求や衝動を、文化的・社会的に望ましい価値あるものへ置き換える心の働き。例えば、失恋を機に勉学に励んだり、行き場のない思いを小説や絵画などにぶつけ、作品として昇華し発散させていくなど。 |
参照:『心理学辞典』有斐閣
『精神看護実習クイックノート』照林社
『グラフィック性格心理学』サイエンス社
原始的防衛機制
また、上記の否認に加え、分裂、理想化、脱価値化、躁的防衛、投影同一視が、母子関係から生まれるものとして、「原始的防衛機制」と呼んだりします。生後1歳頃までに自分と他者(対象)との関係中で自分の心を守る原始的な防衛機制で、メラニークラインが提唱した概念です。
●分裂(スプリッティング)
出来事や人物を、完全な善か悪かのいずれかとして捉えること。つまり、相手の良い部分、悪い部分を総合的に考えることができず、激しいこき下ろしと理想化を繰り返すような心の働き。自分の悪い部分は、他人へ投影されることもある。
●理想化
対象を過度に誇大視して、すべて良いものとして捉えること。
●脱価値化(価値の値引き)
理想化していた対象への万能的期待が満たされない時、その対象を価値のないものとして過小評価すること。
●投影性同一視
自分の中の悪い部分(憎しみや怒りなど)が受け入れられず、相手の中に見出し(投影)、それが相手を支配し傷つけていると自分が感じること。
●躁的防衛
喪失体験から身を守るために、無理に感情を高揚させたり、別感情でごまかそうとする心の働き。